MENU CLOSE

委員会・地方会・部会・研究会

職場における化学物質管理が、これまでの個別管理から自律管理へと大きく変わることに関して

職場における化学物質管理が、これまでの個別管理から自律管理へと大きく変わることに関して 

2022年2月28日

日本産業衛生学会 政策法制度委員会

 厚生労働省は、化学物質管理を、これまでの個別管理からリスクに基づく自律管理へと大きく転換する方針を打ち出しました。管理すべき化学物質の対象を大幅に広げ、職場内における化学物質管理者の選任や外部の専門家(ハイジニスト等)の機能を定めるなど、新しい枠組みの導入が示されています。そして五年後をめどに、特定化学物質等障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則などの関連法規の廃止も考えられています。
 現状、日本の産業保健は法律準拠型です。一方で、世界の趨勢は自律(自主)管理で、これまで日本産業衛生学会(当学会)の政策法制度委員会では自律管理型へ適宜転換することの必要性を訴えてきました1、2)。また多くの化学物質が使用されている産業現場において、有害性に関する情報を元に化学物質を適切に管理するためには、自律管理へ移行する方向性は極めて妥当と考えます。ただし、長年法準拠型に慣れ親しんできた産業現場では、いざ自律管理へと移行した場合、戸惑いや混乱が危惧されます。
 これまでの自律管理へ向けての流れとしては、平成11年に労働安全衛生マネジメントシステムの指針が、平成18年にはリスクアセスメントの指針が出されました。化学物質管理に関しては平成28年の法改正によってリスクアセスメントが義務化されました。しかし、現状、職場への浸透、定着は十分とは言い難く、また、企業規模による差も大きいです。決められたことを忠実に守って行っていればよかった事業者や労働者にとって、自律的に有害性を評価して対策を立てて実行していくことの難しさは容易に想像できます。結果としてその過程で思わぬ事故や災害の発生が懸念されます。また職場内での化学物質管理者の育成や、実施状況を確認、指導する専門家(ハイジニスト)の育成や活用も、限られた期間内では困難が予想され、重大な責務を担う能力の担保方法や、その役割が十分機能するような仕組み作りも課題です。
 今後、産業現場において化学物質の自律管理が無難に定着して機能するには、行政、事業者、労働者、産業保健スタッフ、関係諸機関、それぞれが役割をしっかりと果たすことが大切と考えます。中でも当学会員は労働者の健康保持増進という観点から、より積極的に関わることが期待されます。そのためには事前に情報を十分得て、それぞれの立場で何をすべきかをみずから考え、実践していただくことが必要と考えます。
 現在、事業場内外の専門家の育成をテーマに、ステークホルダーによるラウンドテーブルが当学会主催で開催され、鋭意議論されており、その内容は近々公表される予定です。政策法制度委員会では今後も継続的にこの問題を取り上げて検討を重ね、必要に応じて提言等へつなげるつもりです。

参考文献
1)日本産業衛生学会労働衛生関連政策法制度委員会(現:政策法制度委員会):労働衛生法令の課題と将来のあり方に関する提言. 産衛誌 55:A77~A86. 2013
2)グローバルな最新事情から見直す日本の今後の産業保健サービスと政策・法制度:政策法制度委員会主催シンポジウム(第88回日本産業衛生学会・大阪)の報告 産衛誌 58:143-152 2016

一覧に戻る