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平成12年7月21日

「個人情報保護基本法」制定についての要望書

高度情報通信社会推進本部
個人情報保護法制化専門委員会
委員長  園部 逸夫 様

日本産業衛生学会
理事長 藤木幸雄

 日本産業衛生学会は産業衛生の進歩をはかることを目的とした社団法人で、産業衛生の教育、研究、実務に係る医師、看護職、技術者など会員数約7000人で構成 される日本医学会加盟の学術団体です。

 本学会では本年4月に産業保健専門職の倫理指針を制定するなど、かねてから 個人情報保護については慎重な配慮を払っているところです。

 貴高度情報通信社会通信推進本部個人情報保護検討部会により、昨年11月中間 報告「我が国における個人情報システムの在り方について」が発表され、現在「個人情報保護基本法」制定の動きが進行中です。これらの動向に関連して、日本産業衛生学会として以下のとおり要望します。

  1. 産業衛生の進歩のための情報利用の必要性 

    産業衛生活動の主な目的は、労働条件と労働環境に関連する健康障害の予防と、労働者の健康の保持推進、ならびに福祉の向上に寄与することにあります。そのための適切な施策を遂行するためには、客観的で科学的な根拠が必要であり、職域集団における健康情報や職域環境に関連する情報、それに基づく疫学研究などが不可欠であります。職域におけるリスク評価のための疫学研究の必要性については労働安全衛生法(108条)にも規定されているところです。こうした客観的な根拠の基本になるものが、蓄積された個人情報であります。すなわち、個人情報の適切な活用によって産業衛生の進歩のための適切な施策が可能になると考えます。
    また、産業衛生活動は学際的なチームによって推進されますが、個人の健康情報の利用の禁止により、チームメンバー間の連携が阻害され、効果的な産業衛生活動が望めなくなります。日常の産業医業務においても、医師同士が行う個人の健康情報の流通が一律に禁止されると、現今問題になっているメンタルヘルスの場面を始め、産業医が行う適正配置の判断に支障が出るなど、個人と企業の双方にとって不利益になる可能性が大きいと云わなければなりません。

  2. 個人情報の保護と情報の利用・流通の調和の国際動向 

    個人情報保護検討部会の中間報告でも、個人情報を保護するに当たって考慮すべき視点として、まず「保護の必要性と利用面等の有用性のバランス」をあげています。しかし中間報告では「利用面等の有用性」については実際上、ほとんどふれられていないのは残念であります。
    以下に述べるように国際的にも、個人情報の「保護」と、情報の「利用」あるいは「流通」との調和を図ることが最大の課題となっている点を重視して頂きますよう要望します。

    1. OECD8原則(1980)

      中間報告が重視している1980年のOECD(経済協力開発機構)理事会勧告も加盟国に対して、加盟国間の情報の自由な流通を促進することを目的として、プライバシーと個人の情報の保護に関する原則を国内法の中で考慮すること、個人情報の国際流通に対する不当な障害を除去するよう努めることを勧告しています。

    2. EU指令95/46号(1995)

      中間報告でも重要な国際的指針として紹介されている、EU指令95/46号(1995)「個人データ処理に係る個人の保護及び当該データの自由な移動に関する欧州会議及び理事会の指令」において、個人情報保護の例外となる項目(統計目的や公衆衛生、疫学研究など)があげられていることは、周知のとおりです。このことは、統計目的や公衆衛生、疫学研究などは公益性が非常に高いので、個人情報として保護の対象となり「データの利用や活用」が制限された場合には、国民にとって不利になると判断された結果であると理解することができます。

    3. 米国保健社会福祉省の「個人特定可能医療情報のプライバシー基準規則案」

      米国でも、個人情報の保護に関する連邦法を策定する動きがあります。米国保健社会福祉省から「個人特定可能医療情報のプライバシー基準規則案」が発表されました。この案には個人の特定が可能な医療情報の保護を強化し、官民の医療プログラムおよび医療業務の効率および効果を改善するための条項が盛り込まれています。
      その中で、さらに次のように基本的な視点を明らかにしています。「長官の勧告、およびここに提案する規則によって『質の高い医療の提供、および促進に必要な医療情報の自由な流れ』と『個人の医療情報の適切な保護の確保』という、とくに重要な2つの目標の実現に努めている。「我々は、医療や治療を求める人の情報の使用とプライバシーの保護という重要なことの実現に向けて均衡点を模索し、本規則案によってその均衡点が探り当てられるよう努めてきた。」 そして「個人情報の保護」と「医療情報の利用および活用」に関して、具体的な除外項目をあげています。 産業衛生の領域でも、国際労働衛生会議(International Commission on OccupationalHealth) が1992年に職業保健専門職のための国際倫理規定を公表し、そのなかで研究活動や医学研究は法的しばりのなかでなく、必要に応じてこれを行う機関(大学等)に設置された倫理委員会などで充分審査し、個人情報の保護に留意しながら各種の調査や情報の解析にたずさわっていくべきものとしています。これらの動向は英国王室医学協会産業医学部会レポート「産業医の倫理ガイダンス」(1999年)などに受けつがれています。

  3. 産業衛生の推進のための適用除外項目の設定の要望 

    既に述べたような国際的な動向からも、個人情報保護は、疫学・公衆衛生など個人情報を積極的に活用して国民の統合的便益を確保することとの均衡を図る問題として捉えるべきであります。したがって、我が国で法制化が準備されている個人情報保護基本法において、産業衛生の推進を目的とした公益性の高い情報を取り扱う場合においては、原則が適用除外されるべき項目について、その条件と活用の原則をあわせて法制的に明記していただくように要望します。

  4. 日本産業衛生学会の責務 

    産業衛生の推進、向上に資する学術研究に役立てるための個人情報の収集、利用、管理、開示、管理責任に関しては、労働省、厚生省や関係の学会、団体などと連携をとりながら、本学会としても倫理指針をさらに強化して、産業衛生のために個人情報を利用させて頂くことに対し、国民の理解が得られるよう一層努力する所存であります。

平成12年12月11日

「個人情報保護基本法」制定についての意見書

情報通信技術(IT)戦略本部長
内閣総理大臣  森  喜朗 殿

日本産業衛生学会
理事長 藤木幸雄

 日本産業衛生学会は産業衛生の進歩をはかることを目的とした社団法人で、産業 衛生の教育、研究、実務に係る医師、看護職、技術者など会員数約7000人で構成される日本医学会加盟の学術団体です。

 本学会では本年4月に産業保健専門職の倫理指針を制定するなど、かねてから 個人情報保護については慎重な配慮を払っているところです。

 さて、当学会では、2000年10月に高度情報通信社会通信推進本部個人情報保護法制化専門委員会が発表した「個人情報保護基本法大綱」につきまして、以下の意見を提出します。

  1. 産業衛生の進歩のための情報利用の必要性 

    産業衛生活動の主な目的は、労働条件と労働環境に関連する健康障害の予防と、労働者の健康の保持推進、ならびに福祉の向上に寄与することにあります。
    そのためには、客観的で科学的な根拠が必要であり、労働者の健康情報や職域の環境情報に基づく研究などが不可欠であります。すなわち、個人情報の適切な活用によって適切かつ迅速な産業保健活動がはじめて可能になると考えます。例えば、学会員が個人の健康情報を処理することによって労働環境と発がんの因果関係が確立された過去の学術的な成果としては、下表のようなものがあります。
    学会員による個人の健康情報の取扱いが制約されますと、これらの科学的事実が立証されなくなり、迅速な対応が取れなくなることによりばく露が継続し労働者の健康被害が拡大する恐れがあります。

    表 労働者の個人健康情報を取り扱った疫学研究により発がん性が示唆された職場因子
    ●コールタールと肺がん
    ●ベンジジン・2ナフチルアミンと膀胱がん
    ●アスベストと悪性中皮腫
    ●三酸化砒素と肺がん
    ●ビスクロロメチルエーテルと肺がん
    ●クロム酸と肺がん
    ●塩化ビニルモノマーと肝血管肉腫

     また、日常の産業医業務においても、医師同士が行う個人の健康情報の流通が一律に禁止されると、例えば、現今問題になっているメンタルヘルスの事例で、産業医による適正配置の判断において、健康リスクを過大評価せざるを得ず、結果的には雇用や労働条件の確保に支障が出るなど、労働者と使用者の双方にとって不利益になる可能性が大きいと云わなければなりません。

  2. 個人情報の保護と情報の利用・流通の調和の国際動向

    EU指令95/46号 (1995)「個人データ処理に係る個人の保護及び当該データの自由な移動に関する欧州会議及び理事会の指令」において、個人情報保護の例外となる項目(統計目的や公衆衛生、疫学研究など)があげられているように産業衛生の領域でも、世界労働衛生会議(International Commission on Occupationl Health)が1992年に職業保健専門家のための国際倫理規定を公表し、そのなかで研究活動や医学研究は法的しばりのなかでなく、必要に応じてこれを行う機関(大学等)に設置された倫理委員会などで充分審査し、個人情報の保護に留意しながら各種の調査や情報の解析にたずさわっていくべきものとしています。これらの動向は英国王室医学協会産業医学部会レポート「産業医の倫理ガイダンス」(1999年)や別紙1に示した国際的な倫理綱領などに受けつがれています。

  3. 日本産業衛生学会の責務

    学会員が産業保健専門職としての立場で、個人の健康情報を取り扱うすべての活動は、本学会「産業保健専門職の倫理指針」(別紙2)に従うものであります。このうち、労働衛生法規のもとに労働者の健康情報を取扱う際には、労働安全衛生法規の規定に従うことはもとより、労働省「労働者の健康情報に係るプライバシーの保護に関する検討会」中間報告に従っております。学会員が科学者の立場で、個人の健康情報を取り扱うあらゆる活動は、他の医学会同様に世界医師会のヘルシンキ宣言などに従っております。また、職種や所属機関ごとに、健康開発科学研究会「産業医の倫理綱領」(1998)、国際労働衛生学会「産業保健専門職のための国際倫理規程」(1992)、ILO行動準則「労働者の個人情報保護」(1996)、ILO「労働者の健康サーベイランスのための技術・倫理ガイドライン」(1998)、健康保険組合運営基準や全国労働衛生団体連合会などの倫理規程などにも従うよう努めております。
    以上の理由により、産業衛生の進歩を目的とした学会員の活動については、個人情報保護基本法の義務規定を適用除外していただくよう要請します。

 
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